「ダーチャ文化」を調べていくと、必ずと言っていいほど行き着く一冊の本がある。それが、ロシア人作家ウラジーミル・メグレによる「響きわたるシベリア杉」シリーズ(通称:アナスタシアシリーズ)だ。
シベリアの奥地に一人で暮らす女性・アナスタシアと、著者メグレとの対話を通じて、土地とのつながり方、家族のあり方、子育て、そして「なぜ人は自分の手で庭や畑を持つべきなのか」が静かに語られていく。ロシアでは本シリーズをきっかけに実際に「祖先の地(родовое поместье)」を持ち、家族で樹を植え、自給自足の暮らしを始める人が数百万人規模で生まれたと言われており、現代ロシアのダーチャ文化・エコビレッジ運動にも大きな影響を与えた。
「兼業農家」や「週末ダーチャ」に興味がある方にとって、単なるハウツー本にはない"なぜ土地を持ちたいと思うのか"という根っこの部分に触れられる、少し不思議で、じんわり深いシリーズだ。
正直に言うと、このサイトを始めたきっかけも、このシリーズだった。最初に手に取ったときは半信半疑で読んでいたが、読み進めるうちに「土地を持つ」ということが、単なる不動産や資産の話ではなく、家族や自分自身との向き合い方の話なんだと気づかされた。読み終わる頃には、週末だけでもいいから田舎に小さな土地を持って、自分の手で何かを育ててみたい——そう思うようになっていて、それが今のダーチャ生活の出発点になっている。
以下、シリーズを刊行順に紹介する。気になる巻から手に取ってみてほしい。
第1巻『アナスタシア』
シリーズの出発点。シベリアの実業家だったメグレ氏が、船での交易の旅の途中、taiga(原生林)に一人で暮らす女性アナスタシアと出会うところから物語は始まる。文明社会とは全く異なる価値観、自然との一体感を持つ彼女との対話が、著者の人生観を大きく揺さぶっていく。まずはここから読むのがおすすめだ。
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第2巻『響きわたるシベリア杉』
アナスタシアの語る「シベリア杉」の力、そして人間と自然との本来あるべき関係について、より踏み込んで描かれる。土地や樹木に対する考え方は、家庭菜園やダーチャライフを考えるうえでも示唆に富んでいる。
第3巻『愛の空間』
家族、夫婦、そして子どもを育てる「空間」としての土地・庭という考え方が展開される一冊。1ヘクタールほどの土地に家族で樹を植え、その土地自体が子や孫の代まで愛情を蓄えていく——という発想は、日本の「兼業農家」的な小さな一歩にもつながるヒントがある。
第4巻『共同の創造』
人間が自然や宇宙とどう共に創造していくか、というやや哲学的なテーマを扱う巻。スピリチュアルな要素が強くなるパートだが、「土地に手をかけること=自分自身を整えること」という感覚は、家庭菜園をされている方には腑に落ちる部分も多いはずだ。
第5巻『私たちは何者なのか』
人類のルーツ、歴史の裏側にある視点など、スケールの大きな話が展開される。他の巻に比べて読み応えのある一冊だが、「なぜ先祖代々の土地を持つことが大切なのか」という本シリーズ全体のテーマがより深く語られる。
第6巻『一族の書』
「родовое поместье(祖先の地・一族の領地)」という、シリーズの核となる考え方が具体的に描かれる巻。一族が代々受け継ぐ土地を持つことの意味、子や孫へ何を残すかという視点は、日本で農地を守り継いでいくことを考える上でも重なる部分が多い章だ。
第7巻『生命のエネルギー』
食べ物、健康、そして自分の手で育てた作物が持つ「エネルギー」について語られる巻。家庭菜園や自給自足に関心がある方には、特に共感しやすいテーマかもしれない。
第8巻『新しい文明』(上・下)
シリーズの集大成となる巻。家族と土地を中心とした新しい社会・文明のあり方が、上下巻にわたって描かれる。ここまで読み進めると、単なる「田舎暮らし」や「兼業農家」という言葉の先にある、もう少し大きな物語が見えてくるはずだ。
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まとめ:土地を持つことは、家族の物語を持つこと
アナスタシアシリーズは、農業技術書でも移住ハウツー本でもない。けれど「なぜ自分の手で土地を耕したくなるのか」「なぜ週末だけでも畑に通いたくなるのか」という、兼業農家やダーチャライフの"入り口の気持ち"を、物語としてそっと後押ししてくれる本だ。
全巻一気に読むのもよし、気になる巻から拾い読みするもよし。まずは第1巻から、シベリアの森の空気を感じてみてほしい。
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