「農家になる」は、思うより身近だ
兼業農家というと、実家が農家でなければ縁のない世界だと思われがちだ。だが実際には、都市部に住むサラリーマンが週末だけ農業に関わる道は、いくつも用意されている。
いきなり農地を買う必要はない。むしろ、そこから始めるのは順番が違う。
ステップ1:まずは市民農園・貸し農園から
一番敷居が低いのが、自治体やJAが運営する市民農園、民間の貸し農園だ。数平方メートル〜数十平方メートルの区画を、年間数千円〜数万円で借りられる。
道具の貸し出しがある区画も多く、農業経験がゼロでも始められる。ここでの数年間は「自分は本当に土いじりを続けられるのか」を見極める期間になる。
ステップ2:ダーチャ的な物件を探す
市民農園に慣れてきたら、次の選択肢は畑付きの空き家や別荘だ。地方の空き家バンクには、家庭菜園程度の畑がついた物件が安価で出ていることがある。
ここが日本版ダーチャの本丸だ。週末になると現地に滞在し、土を耕し、季節の野菜を育てる。平日は都市部で仕事を続けたまま、もうひとつの拠点を持つ暮らしができる。
ステップ3:農地そのものを取得する場合
家庭菜園の規模を超えて、本格的に農地を借りたり所有したりする場合は、農地法上の許可(農業委員会の許可)が必要になる。
このとき壁になりやすいのが「農作業常時従事要件」だ。農地を購入して所有する場合、原則として年間150日以上農業に従事することが求められる。週末だけの滞在で満たせる基準ではない。
ただし、農地を**借りる(賃借する)**場合には別のルートがある。「解除条件付き貸借」という制度を使えば、農作業に常時従事しない個人や、農地所有適格法人でない法人でも、農地を借りることができる。具体的には、農地を適正に利用していない場合は契約を解除する旨を書面の契約に明記し、地域の農業者と適切に役割分担しながら農業を続ける見込みがあることを示せば、農業委員会の許可を得られる。
この方式には、毎年の農地利用状況を農業委員会に報告する義務が課されるなど条件は緩くないが、「農地を購入して本格就農する」以外に、「常時従事要件を満たさないまま農地を借りて育てる」という現実的な選択肢が用意されているのは大きい。
農地の状況は自治体・農業委員会によって差があるため、eMAFF農地ナビで候補地を確認したうえで、地元の農業委員会に直接相談するのが確実だ。
いきなり大きく始めない
兼業農家への道でもっとも危険なのは、最初から広い農地や大きな設備投資に手を出すことだ。
市民農園 → 貸し農園 → 空き家付き農地 → 本格的な農地取得、という段階を踏むことで、無理なく暮らしに農業を組み込んでいける。
食料自給率が38%(2024年度・カロリーベース・農林水産省)という数字は、遠い国の話ではなく、自分の食卓の話でもある。誰かに任せるのではなく、自分の手で少しずつ育てる。その最初の一歩は、思っているよりずっと小さくていい。
